
世界を切り開くのは非認知能力の高い「問いを設定できる人」
塩瀬隆之准教授 「非認知能力は『伸ばすぞ!』と高められるものではない」
子どもの失敗を恐れるあまり、「転ばぬ先の杖」を持たせる子育てをしているかもしれない──そんなふうに感じることはないでしょうか。第18回ダヴィンチマスターズでの教育講演会「人生を自分でデザイ ンするために」で、「好奇心と創造性を埋没させない見守り方」をテーマに基調講演に登壇された、京都大学総合博物館准教授、塩瀬隆之にお話を聞きました。塩瀬先生は子どもたちの好奇心やモチベーションは、もしかしたら「周り(親)が結果として邪魔をしてしまっている」せいで、本当はあるのに見えにくくなっているのかもしれないと言います。
「手を出さず、口を出さず、されど目を離さない」
ダヴィンチマスターズ(以下、──)「好奇心と創造性を埋没させない見守り方」をテーマに決めた最大の理由は何でしょうか?
塩瀬隆之先生(以下、敬称略):最近、「子どもたちに好奇心がない」「モチベーションがない」という先生方からの相談が増えているのですが、そんなことはないと信じているからです。むしろ、親や先生など周りがそのつもりはなくても結果として「邪魔」をしてしまっているのではないか──そう感じることがあります。親も先生も、子どもへの愛は当然あるのですが、良かれと思って先回りしていることが結果として「邪魔」してしまうことがあるのです。
子どもはその子なりに好奇心を発揮し、興味を持つ手順があります。でも大人はそれが待てない。3時までに家に帰らないと、5時からお稽古ごとが……などと考え、子どもたちの目が何をとらえているかよりも、時計の針を見てしまう時間が長くなっていないでしょうか。
──失敗しないように、こうしたほうが早いよというような「転ばぬ先の杖」を与えてしまうわけですね。
塩瀬:「手を出さず、口を出さず、されど目を離さない」ことが大事です。ところが保護者の方に「手を出さずに我慢してください」とお話をすると、「じゃあ、私は関係ないということですね」と、半ば放り投げるように目も離してしまう場合がある。でもそれはしてほしくない。
子ども自身は承認欲求が強く、親に見ていてほしい……子どもの中で何かを見つけた瞬間、自分の中で何かが変わった瞬間、パッと振り向くことがありますが、その瞬間こそお母さんに見ていてもらいたいわけですね。ところが今はその時間が待てずにいる。
手を出して、口を出して、さらに目を離してしまう。
この「見ていない状態」の真逆をいかにつくれるか、子どもには好奇心と創造性があると信じて、それを「埋没させない見守り方」をするためのポイントこそが大切ではないかと思っています。
──好奇心と創造性は、学力と関係すると思われますか?
塩瀬:私は様々な学校で講演する機会をいただいていますが、いわゆる偏差値の高い低いの違いは、子どもたちと接していてもあまり感じず、むしろ周りの大人が諦めている度合いの違いのように見えることがあります。
ある学校で講演する際、先生からあらかじめ受けた説明は「うちの生徒たちは話が聞けない。失礼を多くするかもしれませんがゆるしてやってください」というものでした。しかし、実際はどの生徒さんも講演を楽しんで聞いてくれました。
生徒に聞く力がないのだとすれば、それは面白くない話でも聞いているふりをする力に差があるのかも知れず、面白い話であれば誰でも聞けるのではないかと思います。
──学習指導要領のせいで教えたいことを教えることができない、という声を聞くこともあるそうですね。
塩瀬:実際に、中央教育審議会の分科会で学習指導要領の改訂に一部携わる機会をいただいたときに、学習指導要領の前文には、今の時代をとらえたとても大切なことがよくまとめられていることが分かりました。
いくつかの県の教育委員会でお話をする機会をいただくと、新しい前文を読んでない方もいましたし、「いまいち意味が分からなかったがようやく腑に落ちた」とおっしゃってくださる先生もいました。
「平成29・30年改訂学習指導要領」のなかで大きいのは「高大接続改革」による「大学入学共通テスト」の導入です。大学入試センターのサイトでは「平成29・30年度試行調査(プレテスト)」が誰でもダウンロードできるようになっていますが、私はこれを、先生方にも保護者の方にも一度解いてみてもらいたいと思っています。
解いて何点取れるかを確認したいのではなく、「このテストで何を問われているのか」を知ってほしいのです。子どもたちが何を問われようとしているのかも知らずに、ただ大学合格を目指すように発破をかけることが問題だと思っているのです。
共通テストの論争が落ち着いてから解いてみようという方もおられるかもしれません。しかし、最終的なテストはいろいろな策の結果で収束していきますから、むしろ試行テストの方が本当は試したいと思っている学力について、チャレンジングな問題がたくさん含まれています。長文の問題分を読み込ませようとしていたり、安易な消去法を退けるような出題形式を取っているなどです。